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ぼくのオヤシラズをそのまま放置していたら、まるで癌細胞が転移するように、他の歯まで悪くなってしまうのを恐れて、さっさと抜いてやろうと決めたんだろう。生きているうちに医者の責任を果たしたかったのだ。だからあんなに強硬だったんだ。そういうことだったんだ−
この推測が当たっているかどうか、もはや確かめる術(すべ)はない。だが、ぼく自身も癌だったから、同じ病人の直感としてそうおもえてならない。もしも、ぼくが彼だったら、同じことをしたかもしれない。
お互いに自分のからだのことは黙っていて、最後はケンカみたいになったけど、ひとまわり年下の彼も、同じ癌患者同士だった。ぼくと彼の生と死は紙一重の差で分かれたのだ。
患者も多くて、よく働く人だった。彼の死を確かめに行きたくない。もう二度とあの医院長がいなくなった歯科医院に行くことはないだろう。
■散歩の途中で、セミの抜け殻を見つけた。空蝉(うつせみ)とも言う。その姿と寂しげな言葉にいろんなことをおもう。
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